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大阪地方裁判所 昭和32年(ワ)5090号 判決

原告

佐野章

外六名

被告

株式会社ダイハツ南部販売所

主文

被告は原告佐野章に対し金二十万円、原告佐野精一、同佐野房子、同佐野嘉子、同佐野茂雄、同佐野敏雄、同武村和子に対し各金五万円及び右各金員に対する昭和三十二年十一月十五日以降右各完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

原告等のその余の請求を棄却する。

訴訟費用はこれを四分し、その三を原告等の、その一を被告の負担とする。

この判決は原告佐野章において金七万円、その余の原告等において各金二万円の担保を供するときは、原告各自の勝訴部分に限りかりに執行することができる。

事実

原告訴訟代理人は、被告は原告佐野章に対し金八十万円、原告佐野精一、同佐野房子、同佐野嘉子、同佐野茂雄、同佐野敏雄、同武村和子に対し各金二十万円及び右各金員に対する昭和三十二年十一月十五日以降右各完済に至るまで、年五分の割合による金員を支払え、訴訟費用は、被告の負担とする、との判決と、担保を条件とする仮執行の宣言を求め、

その請求の原因として、

一、訴外佐野君江(明治三十八年十一月二十八日生)は、昭和三十二年六月十七日午後三時三十分頃、大阪市福島区鳥州上一丁目六十一番地前道路(通称海老江産業道路)を南方から北方へ歩行横断中、西方から東方へ右道路を進行し来つた訴外原口直吉の運転する小型三輪貨物自動車ダイハツ号(大六す九〇二一号)が右君江に衝突し、君江はその場に転倒し右事故により右君江は頭部打撲及び左肘部、右前額部、右肩胛部左大腿部擦過傷等の傷害を受け、右傷害に基く脳内出血により同日午後十時十五分頃、同市同区海老江上一丁目松本病院において死亡した。

二、本件事故現場は、阪神野田駅から国鉄大阪駅に通ずる幅員約十六米二十糎のアスフアルト舗装の平坦道路上である。訴外原口は本件事故発生当時西方から東方事故現場方向に、時速四十粁以上の速度で疾走し、事故現場手前において同一方向に進行中の小型四輪タクシーを追越すべく、右タクシーの左側(北側)後方を東進した。凡そ自動車運転者はその運転に際しては絶えず進路前方を注視警戒し、特に先行車に接近して進行する場合には右先行車に視界を遮られ、危険発生を容易に察知し得ないのであるから右先行車の動静に注意を払い或は警笛を吹鳴し、もしくは機に応じて急停車の措置を執り得るよう減速して進行する等事故の発生を未然に防止すべき注意義務があるにも拘らず、訴外原口はこの義務に違背し、事故現場直前において右先行タクシーが前記道路を南方から北方へ横断中の前記君江を認めてこれを避けるためハンドルを右に切つたのにも気付かず漫然何等の処置を執ることなく進行したため右君江に、自己の運転する自動車を衝突させ、以て本件事故を惹起させたものであつて、本件事故は訴外原口の右過失によつて発生したものである。

三、そして訴外原口は、被告会社に修理工兼自動車運転者として被用されていた者で本件事故は、訴外原口が被告会社の前記自動車を運転し、被告会社の修理部品を運搬する途中発生したものである。したがつて被告会社は訴外原口の使用責任者として本件事故による損害を賠償すべき義務がある。

四(一)  原告佐野章の損害

同原告(明治三十一年七月二日生)は、前記君江の夫であり、昭和二十七年九月三十日実兄佐野良雄とともに有限会社佐野莫大小を設立し自らその実質上の主宰者となり、当初からその監査役の要職にあつた者で総計約一千万円を下らない財産を有している者であるが、本件事故により突然その妻を失い、結婚適令期の子女を抱えその受けた精神的打撃は甚大である。被告会社側の後記事情その他諸般の事情を考慮しその慰藉料は金八十万円が相当と考える。

(二)  その余の原告の損害

原告佐野精一、同佐野房子、同佐野嘉子、同佐野茂雄、同佐野敏雄、同武村和子はいずれも前記君江の実子であつて本件事故により母の不慮の死に遭遇し、心の支柱を失い筆舌に尽し難い精神的苦痛を蒙つた。右各原告に対する慰藉料の額は、左記各原告の固有の事情及び被告会社側の後記事情その他諸般の事情を考慮し、各金二十万円が相当と考える。

(イ)  原告佐野精一

大正十五年一月十八日生れで君江の長男であり、昭和二十七年近畿大学経済学部を卒業し爾来訴外山久莫大小を経て昭和三十二年以降前記有限会社佐野莫大小の販売係を担当し月収約二万三千円を得ており昭和三十二年秋に予定されていた結婚は、本件事故による母君江の死亡により延期の止むなきに立至つた。

(ロ)  原告武村和子

昭和二年二月二十六日生れで君江の長女であり大阪府立豊中高等女学校卒業後家事に従事し、昭和二十九年訴外武村嘉夫と結婚した者である。

(ハ)  原告佐野房子

昭和九年十月二十一日生れで君江の次女であり、私立薫英高等学校卒業後関西ドレスメーカー女学院の師範科に学び昭和三十一年三月以来大阪大丸の洋裁部に勤務し、月額八千円の給与を受けており近く結婚する運びになつていた矢先本件事故による母君江の死亡に遭つたものである。

(ニ)  原告佐野嘉子

昭和十二年四月一日生れで君江の三女であり私立薫英高等学校卒業後前記有限会社佐野莫大小の会計事務を担当していた者で末女として母君江の愛情は深く、また君江を慕う念も厚かつたものである。

(ホ)  原告佐野茂雄

昭和十五年十一月十七日生れで君江の次男である。生来虚弱体質で君江の献身的な養護を受けており、本件事故当時大阪商業高等学校第二学年在学中であつた。

(ヘ)  原告佐野敏雄

昭和十八年十月十日生れで君江の三男である。原告茂雄同様生来虚弱であり君江の献身的な養護を受けており本件事故当時大淀中学校第二学年在学中であつた。

(三)  被告会社  被告会社は三輪貨物自動車ダイハツ号の販売、修理を業とし、自動車界屈指のマツダ三輪自動車株式会社の傍系会社として業界において相当の業績を挙げている会社である。

五、以上のとおりであるから慰藉料として被告に対し原告佐野章は金八十万円、その余の原告等は各金二十万円及びこれに対する本件訴状が被告に送達された日の翌日である昭和三十二年十一月十五日以降右各完済に至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求めるため本訴に及んだ旨陳述し、

被告の抗弁に対し

被告の抗弁事実中、原告等が昭和三十二年十一月一日被告の主張する保険金三十万円を受領したことは認めるが,その余の抗弁事実は否認する。被告はその抗弁一において(一)本件事故につき被害者君江に過失があつたこと、(二)訴外原口の運転する自動車に構造上の欠陥又は機能の障害がなかつたこと、の事実を挙げ被告には損害賠償責任はない旨主張する、原告は右事実はこれを否認するものではあるが、自動車損害賠償保障法第三条但書による免責を受けるためには右二個の免責事由のほかに「自己及び運転者が自動車の連行に関し、注意を怠らなかつたこと」が必要である。しかるに被告はこの点につき何等主張しないからこの点からいつても被告の抗弁は失当である。

と陳述した。(立証省略)

被告訴訟代理人は、原告の請求を棄却する、訴訟費用は原告の負担とする、との判決を求め、

答弁として、

原告の主張事実中、昭和三十二年六月十七日午後三時三十分頃大阪市福島区鷺州上一丁目六十一番地前道路(通称海老江産業道路)上で訴外原口直吉の運転する小型三輪貨物自動車ダイハツ号(大六す九〇二一号)が訴外佐野君江(明治三十八年十一月二十八日生)と接触し右君江はその場に転倒したこと、右君江は右事故により原告主張の如き傷害を受け、右傷害に基く脳内出血により同日午後十時十五分頃同市同区海老江上一丁目松本病院において死亡したこと、訴外原口は被告会社に修理工兼自動車運転者として被用されていた者で、本件事故は訴外原口が被告会社所有の前記自動車で被告会社の修理部品を運搬する途中発生したものであること、被告会社が自動車の修理、販売を業とする会社であること、並びに原告等が亡君江と原告等主張の如き身分関係にありまたその年令が原告等主張のとおりであることはいずれもこれを認めるが、その余の事実は否認する。

訴外原口は、前記自動車を運転し、前記道路を西方から東進し、本件事故現場たる福島区鷺州上一丁目六十一番地交叉道路手前約五十米の地点において右交叉道路のほぼ中央地点南寄りに前記君江が停立しているのを認めたが、自車の約四米前方を自車と同一方向に進行する小型タクシーの左側をこれと同一間隔を保つて時速約二十八粁の速度で約三十米進行するうち右小型タクシーがハンドルを右に切つた瞬間突如君江が飛出したため、訴外原口は急遽ハンドルを左に切つてこれを避けたが時既に遅く君江は訴外原口の運転する自動車の車体後部右側に接触し、転倒するに至つた。右事故現場は交叉道路ではあるけれども交通の頻繁な個所ではなく、殊に当日は雨天であり人通りは勿論車輛の往来はない状態であつた。したがつて君江は右道路を北側に横断するには前記停立個所に停止し、訴外原口の運転する自動車及び右先行車の通過を待つて、進行横断すべきが当然で本件事故は君江がこの挙に出でず、漫然訴外原口の運転する自動車の前方に飛出したため発生したものであつて、訴外原口には過失はない。また君江は前記の如く先行車がハンドルを右に切つた瞬間「キヤツ」という声とともに飛出しているのであつて、この点から見れば前記先行タクシーが君江を刎ね飛ばしたものとも考えられそうだとすれば本件事故は先行タクシーの運転者の過失によつて発生したものともいうべきである。いずれにしても、本件事故は訴外原口の過失によつて発生したものではない。と陳述し

抗弁として、

一、本件事故は前記の如く亡君江が前記停立個所に停止し訴外原口の運転する自動車及びその先行車の通過を待つて進行横断すべきに拘らず、訴外原口の運転する自動車の前方に飛出し右自動車の寸前を横切ろうとしたため発生したものであつて、本件事故は被害者たる君江の右過失に因るものといわなければならない。また訴外原口の運転する自動車には何等構造上の欠陥又は機能の障害はなかつた。したがつて被告は自動車損害賠償保障法第三条但書により、本件事故による損害を賠償する責を負うべきいわれはない。

二、かりに右主張が理由がないとしても被告会社は訴外原口の選任については右原口が既に運転免許を受け一年以上の運転経験者でありまた過去に一度の事故前歴なく、人物も温厚であるところから雇入れたものであり、又自動車の運転については常に被告は訴外原口に注意を与へていたものであつて、その選任、監督について相当の注意をしていたものである。かりにそうでないとしても本件事故は相当の注意をしても損害が発生することを避けられなかつたものであるから被告には損害賠償責任はない。

三、かりに被告に損害賠償義務があるとしても本件事故については前記の如く亡君江にも過失があつたのであるから、その損害額を定めるについてこれが斟酌を求める。

四、かりに以上の抗弁が理由がないとしても原告等は本件事故により昭和三十二年十一月一日自動車損害賠償保障法により保険金三十万円を受領しているので右金額は損害賠償額から当然控除さるべきものである。

以上の如く陳述した。(立証省略)

理由

原告佐野章は、訴外佐野君江(明治三十八年十一月二十八日生)の夫であり、原告佐野精一はその長男、同武村和子はその長女、同佐野房子はその次女、同佐野嘉子はその三女、同佐野茂雄はその次男、同佐野敏雄はその三男であること、昭和三十二年六月十七日午後三時三十分頃大阪市福島区鷺州上一丁目六十一番地前道路(通称海老江産業道路)上で訴外原口直吉の運転する小型三輪貨物自動車ダイハツ号(大六す九〇二一号)が右君江と接触し右君江はその場に転倒したこと、君江は右事故により頭部打撲及び左肘部、右前額部、右肩胛部、左大腿部擦過傷等の傷害を受け、右傷害に基く脳内出血により同日午後十時十五分頃同市同区海老江上一丁目松本病院において死亡したことはいずれも当事者間に争がない。

そこで先づ右事故が訴外原口の過失によつて発生したものであるかどうかを判断する。

成立に争のない甲第四号証及び証人大類タツエ、同小川清、同原口直吉(但し後記措信しない部分を除く)の各証言並びに検証の結果に本件口頭弁論の全趣旨を総合すると本件事故現場は阪神野田駅から国鉄大阪駅に通ずる幅員約十六米二十糎の平坦舗装道路とこれと南北に交叉する幅員約六米の道路との交叉点であるが訴外原口は前記日時に前記舗装道路左側を西方阪神野田駅方面から東方国鉄大阪駅方面に向い時速約四十粁の速力で前記自動車を運転進行し前記交叉点手前約五十米の地点において右交叉点を南方から北方へ徒歩で横断中の前記君江が前記舗装道路のほぼ中心線附近にいるのを認めたが、たまたま自車の斜右前方を小型タクシーが同一方向に進行していたため、その方向への視界を遮られたまゝの状態で右君江において右二台の自動車が通過し終るのを停止して待つているものと軽信し何等適宜の処置を執ることなく漫然進行したため前記小型タクシーによる死角内から現われた君江を至近距離において発見し、急遽ハンドルを左に切つて、これを避けたが既に遅くその車体右側に君江が接触転倒するに至つた事実を認めるに充分であり、右認定に反する証人原口直吉の証言部分は措信し難く、他に右認定を覆すに足る証拠はない。凡そ自動車運転者たる者はその運転に際しては絶えず前方を注意警戒し、特に先行車に接近して進行する場合には右先行車に前方の視界を遮られ危険の発生を容易に察知し得ないのであるから、先行車前方死角内から不意に人その他の障害物が自己の進路前方に現われ、このためこれと衝突、接触する等の事故が発生したりすることのないよう、右先行車の動向に注意するは勿論警笛を吹鳴して前記死角内にある者の注意を喚起し、もしくは機に応じ急停車の措置を執り得るよう徐行して進行する等事故の発生を未然に防止すべき注意義務あるは明らかである。したがつて前記認定の事実からすれば訴外原口には右自動車運転者としての注意義務違反があるものというべく本件事故は訴外原口の右過失によつて発生したものといわなければならない。

そして訴外原口が被告会社に修理工兼自動車運転者として被用されていた者で本件事故は訴外原口が被告会社所有の前記自動車で被告会社の修理部品を運搬する途中発生したものであることは当事者間に争がないので被告会社は本件事故により原告等の蒙つた損害を賠償する義務があるものといわなければならない。

そこで抗弁につき検討する。

一、被告は抗弁一として自動車損害賠償保障法第三条但書による免責事由を主張しその事由の一として、被害者君江は訴外原口の運転する自動車及びその先行車の通過が終るまで進行を停止し、右二車の通過後始めて進行し道路を横断すべきにも拘らず、かかる行為に出ず訴外原口の運転する自動車の寸前に飛び出し右自動車の前方を横切ろうとした過失があると主張するけれども、本件事故が被告主張の如く君江が訴外原口の運転する自動車の前方を横切ろうとしたため発生したと認むべき証拠はない。のみならず被告が右第三条但書による免責を得るためには、被告主張の事由のほか「自己及び運転者が自動車の運行に関し注意を怠らなかつたこと」を主張立証すべきであるにも拘らず、被告は何等この責を果していないから被告の抗弁一は採用できない。

二、次に被告の抗弁二について検討すると被告は、訴外原口の選任、監督につき相当の注意をしていたから賠償義務はないと主張し、証人佐藤保男の証言及び被告会社代表者田中康衛本人尋問の結果によると、右免責事由として被告の主張する事実はこれを認め得ないわけではないけれども、右事実の程度では被告が訴外原口を選任するにつき相当の注意をしたものとはいい得ないし、また監督上過失がなかつたというためには平素の概括的な訓示注意だけでは足りず、具体的な個々の運転につき個別的な必要且つ充分な注意を与へたことを要するものと解すべきであるからかかる事実については被告は何等主張立証していないのであるから、被告は訴外原口の監督につき過失がなかつたとはいえず、また被告が訴外原口の選任監督につき相当の注意をなすも本件損害が発生することを到底避けられなかつたものと認めるに足る証拠はない。したがつて被告の抗弁二も理由がない。

三、次に被告は被害者君江に過失があつたことを理由に過失相殺を主張するけれども、君江に被告主張の如き過失のなかつたことは既に認定したとおりであるから、君江に過失があつたことを前提とする被告の右抗弁も失当であつて到底採用できない。

四、次に被告は、原告等は本件事故により昭和三十二年十一月一日自動車損害保障法により保険金三十万円を受領しているので、右金額は損害賠償額から当然控除さるべきものである旨主張するのでその当否につき検討するに原告等が被告主張の右金員を受領していることは当事者間に争がないが、自動車損害賠償保障法における損害賠償は被害者の精神上の苦痛に対する慰藉までもその目的とするものではないと解すべきであるから被害者において既に同法による保険給付を受領した場合でもなお慰藉料の請求はこれをなし得るものというべく、被害者が保険給付を受領したとの事実は慰藉料額算定の一の資料となり得るにすぎないものと解すべきである。

よつて進んで原告等の本件慰藉料請求につき検討するに、本件事故により原告佐野章はその妻をまたその余の原告等はその母を失い、いずれも精神上多大の苦痛を受けたことは経験則上明らかであるというべく、よつて慰藉料の額につき検討するに原告等の年令がいずれも原告主張のとおりであることは当事者間に争がなく、証人寺尾まさえの証言、原告兼原告佐野敏雄法定代理人佐野章本人尋問の結果並びに原告佐野嘉子、同佐野精一各本人尋問の結果を総合すると、原告佐野章は訴外有限会社佐野莫大小の実質上の主宰者で昭和二十七年右会社設立以来その監査役の要職にあり、総計数千万円に上る財産を所有する者であるが本件事故前、糖尿病に罹りその病質上妻君江の愛情ある看護を受けていたが本件事故後は止むなく家政婦を雇い同女に看護、家政を委せるの止むなきに立至り、未婚の子女の結婚問題等妻亡き後精神上幾多の痛手苦痛を蒙むるに至つたものであること及びその余の原告等がいずれも各原告等主張の如き社会的地位、身分或は家庭的事情にあることを認めるに充分であり一方成立に争のない乙第一号証及び証人佐藤保男の証言並びに被告会社代表者田中康衛本人尋問の結果を総合すると被告会社は自動車の売買、修理等を目的とする資本金百五十万円、従業員約三十名を擁する会社であり順調な営業成績を挙げていることを認めることができる。以上認定の事実に前記認定のとおり本件事故は被害者君江に何等の過失はなかつたこと、被告会社代表者田中康衛本人尋問の結果により認められる被告は本件事故につき被害者側への慰藉としては君江の葬儀に金一万円の香奠と、僅かの供物をしたに止ること、原告等において既に認定した保険金三十万円を受領していること、その他諸般の事情を総合考察し、被告が原告等に対し支払うべき慰藉料は原告佐野章に対し金二十万円、その余の原告等に対しては各金五万円を以て相当と認める。

以上認定判断のとおりであるから被告は慰藉料として原告佐野章に対しては金二十万円、その余の原告等に対しては各金五万円を支払うべき義務あるものというべく、よつて原告等の本訴請求は右各金員及びこれに対する本件訴状が被告に送達された日の翌日であること本件記録に徴し明らかである昭和三十二年十一月十五日以降右各完済に至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で正当として認容し、その余は失当として棄却すべく訴訟費用の負担につき民事訴訟法第九十三条、仮執行の宣言につき同法第百九十六条を各適用し、主文のとおり判決する。

(裁判官 村上明雄)

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